親友と起業して、絶縁した — 株の取り合いで人間関係が壊れる瞬間

スタートアップの失敗原因の第1位は「共同創業者間の対立」だと言われている。CBInsightsの調査によれば、スタートアップの死因の23%がチーム内の不和だ。市場の問題や資金不足よりも、人間関係の問題のほうが会社を殺す確率が高い。

私はこれまで、3つのスタートアップを立ち上げた。そのうち2つで共同創業者との「別れ」を経験している。この記事では、その経験を元に、共同創業者との別れが避けられなくなった時にどうすべきか、法的・感情的な両面から整理する。

なぜ共同創業者と別れることになるのか

共同創業者との関係が破綻するパターンは、大きく分けて4つある。

パターン1:ビジョンの不一致

最初は同じ方向を見ていたはずなのに、プロダクトが成長するにつれて方向性の違いが明確になる。典型的なのは「グロース vs. プロダクト品質」の対立だ。一方は「今は完璧でなくてもいいから、とにかくユーザーを増やそう」と考え、もう一方は「品質が低いプロダクトを出したら信頼を失う」と考える。

どちらが正しいかは状況次第だが、この対立が慢性化すると、毎回の意思決定が闘いになる。やがて互いの存在そのものがストレスの源になる。

パターン2:コミットメントの格差

一方が週80時間働いているのに、もう一方は週40時間。最初は「それぞれのペースで」と思っていても、会社が苦しい局面に直面した時、この格差は致命的な不公平感を生む。

特に問題なのは、株式が均等に分配されている場合だ。「同じ持分なのに、なぜ自分だけこんなに働かなければならないのか」という感情は、一度芽生えると消えることはない。

パターン3:能力のミスマッチ

創業時にはCTOとして十分だった共同創業者が、会社の成長に伴って技術的なリーダーシップを発揮できなくなることがある。「10人のチームをマネジメントする」スキルと「2人でコードを書く」スキルはまったく別物だ。

これは誰が悪いわけでもない。しかし、会社の成長を優先するなら、役割の再定義か離脱を検討せざるを得ない。

パターン4:信頼の崩壊

経費の不正使用、重要な情報の隠蔽、外部への情報漏洩。信頼の崩壊は修復が極めて難しい。この場合、別れは不可避だ。

別れを決断する前に試すべきこと

共同創業者との関係は、結婚に例えられることが多い。離婚を決断する前にカウンセリングを試みるように、別れの前にやるべきことがある。

  1. 1対1の率直な対話:第三者を入れずに、互いの不満を率直に伝え合う。この時、「You statement」ではなく「I statement」を使う。「あなたがサボっている」ではなく「私は不公平に感じている」と伝える。
  2. 外部メンターの介入:VCやアクセラレーターのメンターに仲介を依頼する。第三者の視点が入ることで、感情的な対立が建設的な議論に変わることがある。
  3. 役割の再定義:肩書きに固執せず、互いの強みを活かせる役割に変更する。CTOがCTO的な役職から外れ、IC(Individual Contributor)として技術に集中するなど。
  4. 試用期間の設定:3ヶ月間の改善期間を設け、具体的な目標を設定する。期限が来たら再評価する。

別れを決断した後のプロセス

あらゆる手段を尽くしても関係が改善しない場合、別れを決断することになる。ここからは、法的・実務的なプロセスを整理する。

ステップ1:弁護士の確保

まず最初にすべきことは、スタートアップに詳しい弁護士を確保することだ。できれば双方がそれぞれの弁護士を持つことが望ましい。同じ弁護士が双方を代理すると、利益相反の問題が生じる。

弁護士費用は安くないが、ここでケチると後に桁違いのコストがかかることになる。株式の譲渡、競業避止義務、知的財産権の帰属など、専門知識なしに処理するのは危険だ。

ステップ2:株式の取り扱い

最も重要かつ最も揉めやすいのが、離脱する共同創業者の株式をどうするかだ。選択肢は以下の3つ。

選択肢A:株式の買い取り
会社(または残る創業者)が離脱者の株式を買い取る。バリュエーションの算定方法が問題になる。直近のラウンドの株価をベースにするのが一般的だが、シード期でまだラウンドを実施していない場合は、第三者の株式評価(バリュエーション)を依頼する必要がある。

選択肢B:ベスティングの適用
創業時にベスティング条項を設定していた場合、離脱時点で未ベスティングの株式は会社に返還される。例えば、4年ベスティング・1年クリフの場合、1年以内の離脱であれば全株式が返還される。1年経過後は、月次で48分の1ずつ権利が確定する。

ベスティングが設定されていなかった場合、事後的にベスティングを適用することは法的に困難だ。これが「創業時にベスティングを設定しておくべき」と繰り返し言われる理由だ。

選択肢C:株式の保持
離脱者が株式をそのまま保持するケースもある。この場合、議決権の取り扱いが問題になる。一般的には、議決権を制限する(無議決権株式への転換、または議決権の委任)ことが望ましい。経営に関与しない株主が議決権を持つことは、将来の経営判断を妨げるリスクがある。

ステップ3:知的財産権の整理

離脱する共同創業者が開発に関わったコード、デザイン、特許出願中の技術などの知的財産権は、会社に帰属することを明確にする。雇用契約や業務委託契約に「職務著作」の条項がある場合は問題ないが、共同創業者同士で正式な契約を結んでいないケースも多い。

知的財産権の帰属が不明確なまま離脱を進めると、後に離脱者から「あのコードの著作権は私にある」と主張される可能性がある。離脱合意書の中で、知的財産権の会社帰属を明記することが必須だ。

ステップ4:競業避止義務と秘密保持

離脱する共同創業者が、同じ市場で競合するサービスを立ち上げることを防ぐため、競業避止義務を設定する。日本の法律では、競業避止義務の有効期間は一般的に1〜2年とされている。それ以上の期間は、裁判で無効と判断される可能性が高い。

秘密保持義務は、顧客情報、技術情報、経営情報などの機密情報を対象とする。これは競業避止義務とは別に、期間の制限なく設定することが可能だ。

感情面のマネジメント

法的・実務的なプロセスと同等に重要なのが、感情面のマネジメントだ。共同創業者との別れは、文字通り「ビジネス上の離婚」であり、当事者には大きな精神的ストレスがかかる。

自分自身のケア

まず、自分自身の感情を認識し、受け入れることが重要だ。怒り、悲しみ、裏切られたという感覚、罪悪感——これらの感情は自然なものであり、否定する必要はない。

しかし、感情に基づいて意思決定を行うことは避けるべきだ。怒りに任せて不利な条件を突きつけたり、罪悪感から必要以上の譲歩をしたりすることは、後に後悔する原因になる。

信頼できる人に話を聞いてもらうことも重要だ。起業家仲間、メンター、またはプロのカウンセラー。自分一人で感情を処理しようとすると、判断力が低下する。

チームへの影響

共同創業者の離脱は、残るチームメンバーにも大きな影響を与える。「次は自分が切られるのではないか」という不安、チームの方向性への疑問、単純にショックや悲しみ。

これに対処するためには、透明性の高いコミュニケーションが不可欠だ。離脱の理由を(プライバシーに配慮しつつ)チームに説明し、今後のビジョンを明確に伝える。個別面談の場を設け、メンバーの不安や疑問に丁寧に答える。

投資家へのコミュニケーション

既に投資家がいる場合、共同創業者の離脱は「重大事象」として報告する必要がある。隠そうとすると信頼を失う。事前に相談し、プロセスの進め方についてアドバイスを求めることが望ましい。

多くの経験豊富なVCは、共同創業者の離脱を「スタートアップあるある」として理解している。重要なのは、離脱によって事業が頓挫しないことを示すことだ。

予防策:最初からやっておくべきこと

最も重要な教訓は、「別れが必要になる前に、別れのプロセスを決めておく」ことだ。具体的には、以下の3つを創業時に合意しておくべきだ。

  1. ベスティング条項:4年ベスティング、1年クリフが業界標準。共同創業者全員に適用する。
  2. 共同創業者間合意書:役割分担、意思決定プロセス、離脱時の株式取り扱いを明文化する。
  3. 紛争解決条項:対立が解消しない場合の最終手段(調停、仲裁)を事前に決めておく。

これらを創業時に議論するのは気まずい。しかし、良好な関係にある時だからこそ、冷静に公正な合意を結ぶことができる。関係が悪化した後では、すべての交渉が感情的になり、公正な合意は困難になる。

共同創業者との別れは、人生で最も辛い経験の一つだ。しかし、適切に処理すれば、会社は生き残る。そして、別れを経験した起業家は、次の会社ではより賢明なパートナーシップを築くことができる。