スタートアップの経営管理で意外と頭を悩ませるのが、法人カードの選択だ。SaaS利用料、広告費、出張費——月々の支出は会社の成長に伴って急速に増える。適切な法人カードを選ぶことは、キャッシュフロー管理と経理業務の効率化の両面で重要だ。
この記事では、スタートアップに特に人気の3つの法人カードサービス——freeeカード、マネーフォワードビジネスカード、Paild——を実際の利用経験に基づいて徹底比較する。
比較の前提条件
今回の比較は、以下のようなスタートアップを想定している。
- 従業員数:5〜30名
- 月間カード決済額:100万〜500万円
- 主な利用用途:SaaS利用料、広告費、出張費、備品購入
- 会計ソフト:freee会計 or マネーフォワードクラウド会計
freeeカード
概要
freee株式会社が提供するスタートアップ向け法人カード。freee会計との連携が最大の特徴だ。2024年にサービスを刷新し、与信モデルの改善により、創業間もないスタートアップでも発行が可能になった。
基本スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年会費 | 無料 |
| ブランド | Visa |
| 還元率 | 0.5%(freeeポイント) |
| 利用限度額 | 最大1億円(審査による) |
| 追加カード | 最大50枚 |
| 支払いサイクル | 月末締め・翌月末払い |
メリット
- freee会計との完全連携:決済データが自動でfreee会計に取り込まれ、仕訳候補が自動生成される。経理担当者の作業が大幅に削減される。
- 与信枠の柔軟性:freee会計のデータを基に与信判断を行うため、銀行系カードでは得られない高い与信枠が設定されることがある。特に、MRRが安定しているSaaS企業には有利だ。
- 経費精算との統合:freeeの経費精算機能と統合されており、カード決済の証拠(レシート)のアップロードから仕訳作成までがワンストップで完了する。
デメリット
- freeeエコシステムへのロックイン:freee会計以外の会計ソフトを使っている場合、連携のメリットが大幅に減少する。
- 還元率の低さ:0.5%の還元率は、後述のマネーフォワードビジネスカードやPaildと比較して見劣りする。
- 海外利用時の手数料:海外利用時の為替手数料が2.2%と、やや高め。海外SaaSの利用が多い場合はコスト増になる。
マネーフォワードビジネスカード
概要
マネーフォワード株式会社が提供する法人向けプリペイドカード。クレジットカードではなくプリペイド方式のため、与信審査なしで即日発行が可能。チャージした金額の範囲内で利用する仕組みだ。
基本スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年会費 | 無料 |
| ブランド | Visa |
| 還元率 | 1%〜3%(利用額に応じて) |
| 利用限度額 | チャージ額に応じて(上限5000万円/月) |
| 追加カード | 無制限(バーチャルカード) |
| 支払いサイクル | 即時引き落とし(プリペイド) |
メリット
- 高還元率:最大3%の還元率は、法人カードとしては破格。月間決済額500万円の場合、年間で最大180万円のキャッシュバックになる計算だ。
- 審査不要・即日発行:プリペイド方式のため与信審査がなく、申し込みから最短即日で利用開始できる。設立直後のスタートアップにとって、これは大きなメリットだ。
- バーチャルカードの無制限発行:SaaSの利用先ごとにカード番号を分けることで、セキュリティリスクの分散と経費管理の精緻化が可能。
- マネーフォワードクラウドとの連携:マネーフォワードクラウド会計、経費、請求書との自動連携。仕訳の自動生成機能あり。
デメリット
- プリペイド方式の制約:チャージした金額の範囲内でしか利用できないため、急な大口支出に対応しづらい。ホテルのデポジットなど、一時的に大きな枠が必要な場面では不便。
- キャッシュフローへの影響:クレジットカードのような「支払い猶予期間」がないため、資金繰りの面ではクレジットカードに劣る。
- ETCカード非対応:物理カードも発行可能だが、ETCカードには対応していない。営業車を使う企業には不向きだ。
Paild(ペイルド)
概要
株式会社Handiiが提供する法人向けプリペイドカード。「経費精算をなくす」をコンセプトに、カード決済と経費管理を一体化したサービスだ。
基本スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年会費 | 無料(フリープラン)/ 月額980円(ビジネスプラン) |
| ブランド | Visa |
| 還元率 | 0%(還元なし) |
| 利用限度額 | チャージ額に応じて |
| 追加カード | 無制限(バーチャルカード) |
| 支払いサイクル | 即時引き落とし(プリペイド) |
メリット
- 経費管理機能の充実:カードごとに利用上限額、利用可能カテゴリ、利用可能期間を設定できる。「広告費用のカードは月100万円まで」「出張用のカードは交通費と宿泊費のみ」といった細かなコントロールが可能。
- 承認ワークフロー:一定金額以上の決済に対して、上長の承認を必要とする設定が可能。不正利用や予算超過の防止に有効だ。
- 会計ソフト連携:freee、マネーフォワード、弥生など主要な会計ソフトとAPI連携。特定のエコシステムに縛られない柔軟性がある。
- Slack連携:決済のリアルタイム通知、残高アラート、承認リクエストをSlack上で処理できる。
デメリット
- 還元率0%:ポイント還元やキャッシュバックは一切ない。決済額が大きい企業ほど、機会損失が大きくなる。
- プリペイド方式の制約:マネーフォワードビジネスカードと同様、チャージ残高の範囲内でしか利用できない。
- 知名度の低さ:freee、マネーフォワードと比較して知名度が低く、サポート体制への不安の声もある。
総合比較表
| 項目 | freeeカード | マネフォビジネスカード | Paild |
|---|---|---|---|
| 方式 | クレジット | プリペイド | プリペイド |
| 年会費 | 無料 | 無料 | 無料/980円 |
| 還元率 | 0.5% | 1〜3% | 0% |
| 審査 | あり | なし | なし |
| 発行速度 | 1〜2週間 | 即日 | 即日 |
| 経費管理 | ○ | ○ | ◎ |
| 会計連携 | ◎(freee) | ◎(MF) | ○(汎用) |
| キャッシュフロー | ◎(後払い) | △(前払い) | △(前払い) |
どれを選ぶべきか? — ケース別推奨
ケース1:freee会計を使っているスタートアップ
→ freeeカードがベスト。会計連携のメリットが最大限に活きる。還元率は低いが、経理工数の削減を考えれば十分に元が取れる。
ケース2:キャッシュバック重視のスタートアップ
→ マネーフォワードビジネスカードがベスト。月間決済額が大きいほど、還元率の差が効いてくる。ただし、資金繰りに余裕がある(プリペイドでも問題ない)ことが前提。
ケース3:経費管理を厳格にしたいスタートアップ
→ Paildがベスト。カードごとの利用制限、承認ワークフロー、Slack連携など、経費管理機能は3サービスの中で最も充実している。従業員数が増えてきたフェーズで特に威力を発揮する。
ケース4:設立直後で与信がないスタートアップ
→ マネーフォワードビジネスカードまたはPaild。プリペイド方式は審査不要で即日発行できるため、設立直後でも利用可能。まずはプリペイドカードで実績を積み、後にクレジットカードに切り替える戦略が有効だ。
実践的なTips
最後に、法人カード運用の実践的なTipsを紹介する。
- 複数カードの併用:1つのサービスに絞る必要はない。例えば、日常のSaaS利用料はマネーフォワードビジネスカード(高還元)、出張費はPaild(利用制限付き)、大口の広告費はfreeeカード(後払い)という使い分けが可能。
- バーチャルカードの活用:SaaS利用先ごとにバーチャルカードを発行し、番号を分ける。情報漏洩時の被害を最小限に抑えられるし、経費の自動分類にも役立つ。
- 利用限度額のこまめな見直し:事業の成長に伴い、月間決済額は急速に増える。限度額の引き上げ申請は、余裕を持って行うこと。
- レシート管理の自動化:電子帳簿保存法の要件を満たすため、レシートの電子保存は必須。各サービスのスマホアプリでの撮影・アップロード機能を活用する。
法人カードは「たかがカード」と思われがちだが、月間数百万円の決済を行うスタートアップにとっては、キャッシュフロー管理の要だ。自社のフェーズと利用スタイルに合ったカードを選ぶことで、経営管理の質は確実に向上する。








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